あれは5年ほど前、冬の寒い夜のことです。
松戸市に住む友人と食事をしたあと、
いつものようにカラオケではしゃぎ、
友人を自宅まで送って行った帰り道でした。
松戸市は狭い道が多く、道路を把握しきれていなかった私は、
友人のナビがないと抜け道で迷子になるような状態てした。
友人は車の免許は持っていましたが、
更新をしなかったために免許は失効。
もっぱら自転車での行動が多かったせいもあり、
さすがに抜け道には精通していました。
「あっ、ここを左ね」そう言って狭路から自衛隊駐屯地がある
県道にさしかかるT字路で、私達はやけに長い信号に止められました。
その長い信号の県道を渡った左斜め前方に、
公衆電話がポツンと立っていたのです。
私は何気なくその公衆電話が気になって見てみると
「ねぇねぇ、あの公衆電話でずっと俯いて電話している人って、
女の人だよね?」
なんとなく気になって仕方がない私は
友人に声をかけて見てもらいました。
「ん? あー、そうかな。男にも見えるよね」
そう言ったのにはわけがあり、
その公衆電話で話をしている人は一度も顔をあげることなく、
ずーっと下を向いていたからです。
しかも髪はショート。男とも女ともわからない外見でした。
「全然顔を上げないよね。
しかもこんな時間にあんな薄着で寒くないのかな」
私はどうしても気になって再び彼女に聞いていました。
「そうだね。今時公衆電話なんて使わなくてもケータイがあるのにね。
本当、寒くないのかなぁ」
その人の格好はグレーの上下のスエットを着ただけの薄着でした。
頭を下に向けたまま、ずっと背中を丸めて話していました。
「信号、そろそろ変わるよ」
どうしても公衆電話が気になって目が離せない私に彼女が教えてくれ、
やがて進行方向が青になったので、私はわざとゆっくりと車を発進させました。
なぜなら、左折をすれば少しは公衆電話に近づき、
その人がどういう人なのかがわかると思ったからです。
友人も同じことを考えていたようで、
ゆっくりと左折をする車内から公衆電話をジッと見つめていました。
そして次の瞬間
「えっ!?」
どちらともなく声をあげていたのです。
「………………」
「………………」
左折をしたあと、
私達は沈黙してしまいました。
なぜなら……「ねぇねぇ、あの公衆電話、人なんていなかったよね?
さっきの人、突然いなくなっていたよね?」
恐る恐る私が聞くと
「いやぁ~っ! 言わないで!! それ以上、言わないでっ!!」
「………………」そうです。
その公衆電話には最初から人などいなかったのです。
だけど確かに友人も私もそこにいた人を見ているのです。
グレーのスエットだけを着た、季節外れの薄着をした人を。
あれは一体……
それ以来友人と私は二度とその道を利用することはなくなりました。
ただ、あとから聞いた話によると、嘘か本当かは不明ですが、
松戸市は霊が多く出没するらしく、心霊スポットも多くあるようです。
あの公衆電話もそのひとつだったのかもしれません。
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