瀬戸内海にかかる瀬戸大橋や、
市街の夜景を一望できるスポットとして知られる
鷲羽山(わしゅうざん)

倉敷市の児島半島最南端にある山で、
昔から幽霊が出るという話があります。

私も子供の頃に親戚の兄ちゃん達と遊びに来た時に、
鷲羽山にお化けが出るなんて驚かされて、
山を降りているときは窓の外を見ないようにしたのを覚えています。

これは倉敷出身の後輩Mくんから聞いた話で、
Mくんが鷲羽山の展望台から夕日に染まった海を、
彼女と一緒に眺めていた時の出来事です。

彼女が「すごいね」と言って、Mくんは「うん」とだけ答えて、
それから二人は言葉を忘れて目の前の景色に見とれていました。

Mくんはこうやって彼女と並んで、
素敵な景色を眺めていることに幸せを感じていて、
彼女も同じ気持ちだといいなと思っていました。

キラキラ光っていた波も暗くなったなと思っていると、
彼女がMくんの目の前に手を出して上下に揺すってきました。

「急になんしょん」

そう言ったMくんは、自分の耳が聞こえなくなっていた事に、
自分の声が聞こえなかったことで気が付きました。

「そっちがボーッとしてるからでしょ」

Mくんは自分の状況に何も考えられなくなっていましたが、
すぐに彼女の声や風の音が聞こえてきたことで、
嬉しさから体中の力が抜けたそうです。

彼女にしてみたら、
呼びかけても返事を返さないと思っていて、
やっと気がついたと思ったら、
急に笑顔で崩れ落ちたMくんが怖かったそうです。

Mくんはすぐに病院で検査を受けましたが、
どこにも異常は見つかりませんでした。