秋田市のはずれに仁別国民の森という場所があります。
広大な森林の中にキャンプ場や博物館、アスレチック設備などがあり、
市内の小学生なら一度は遠足等で訪れたことがある所です。
私は高校2年の夏、バイク2台に友人4人で分乗し、
肝試しに仁別国民の森に行きました。
何でもその昔はこの辺りに山賊などがいて、通りかかった人を殺していたり、
仁別国民の森の奥のトイレなどで自殺した人の霊が出ると噂されたりしていましたが、
誰一人霊の存在など信じていなく、
肝試しもただの夜のツーリングに終わると誰もが思っていました。
1時間近く走り、道はやがて林道になり、
街灯もなくヘッドライトだけが頼り。
時折タヌキかなにかの小動物が道端にいて、
ヘッドライトに光る眼が見えましたが、特に驚くこともなく進みました。
やがて着いた仁別国民の森は、バイクのエンジンを切ると
虫の声くらいしか聞こえませんでした。
人工的な明かりが一切無く、懐中電灯もない私たちは、
暗闇に目が慣れるまでバイクの近くから離れませんでした。
10分もするとかなり目が慣れましたが、
最初見えなかったうっそうと広がる森が現れ、私は少々緊張しました。
緊張したのは私だけではなかったようで、
なかなかみんなバイクから離れようとしません。
すると50メートルほど離れた辺りから、
カーンと空き缶がアスファルトに投げられたような音がしました。
みんな顔を見合わせ、音のした方を凝視しましたが、
目が慣れたとはいえ、さすがに見える距離でもなく、変な空気が流れました。
我慢しきれない一人が「タヌキかなんかじゃね?」と言い、
みんなもうなずきましたが、本心はみんな違っていました。
それは明らかに投げられた空き缶が落ちる音だったからです。
するとまた同じようにカーンという音がしました。さっきより近い距離で。
一人が暗闇に向かって「コラっ!誰だっ!」と怒鳴りました。
可能性としては誰かが驚かそうと故意に投げているしか思いつかないからです。
しかし暗闇からの返事はなく、私たちは誰ともなく「帰ろうぜ」と言い、
バイクにまたがりました。ヘルメットをかぶり、
エンジンをかけようとしたその時、三度目の音がしました。
しかもかなり近くで。
「うわっ!!」と叫ぶ友人を見ると、
その足元に空き缶が一つコロコロと転がってきました。
その後は猛スピードで帰りました。誰もバックミラーは見ませんでした。
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