東京都台東区上野公園
今から二十年くらい前、まだ私が高校生だった頃、
夏休みの出来事です。
友達といつものように上野で集まって遊んでいると、
誰からともなく、せっかく夏休みだし肝試しでもしたいという話になりました。
とは言っても皆そんなに心霊スポットに詳しいわけでもなく、
当時集まったメンツの移動手段も限られていましたので
近場で何かできることはないかと話し合っていると、
友人の一人が先輩から聞いたという話をしてくれました。
その話というのが、いわゆる怪奇現象にあうための方法のようなもので、
池や噴水など水場の周りを複数人が二手に分かれて半周して、
半分行ったところで一度合流したあとに元来た道を引き返すと、
その帰り道で何かが起こるという、いかにもありがちなものでした。
当時の私たちは時間を持て余していましたし、
夏の夜で気分も盛り上がっていたので
万が一何か起これば面白いくらいの気分で不忍池に行くことにしました。
不忍池は池の真ん中に弁天堂のある島があり、
その島から道が京成上野駅に向かって一本、駅と反対方向に二本伸びており、
ちょうどY字の道によって池が三つに分割されたようになっています。
池の真ん中の弁天堂から出発して駅と反対方向の道を通ると
池の三分の一を回ることになり、距離も一キロ弱と長すぎず短すぎないため
私たちはこのルートで池を回ることにしました。
夜の不忍池は照明が少ないとは言っても
弁天堂のあたりはライトアップされていましたし、
駅にも近くビル街の照明もあるので真っ暗とは程遠く、
いわゆる心霊スポット的な雰囲気はありませんでした。
そのときは私も含めて六人いたので、
三人ずつに分かれて弁天堂の前から、池の周りを回りはじめました。
私のグループは左手の道を時計回りに進み、
ちょうど半分行ったあたりで右手の道を進んでいったグループを待っていました。
一周回るのに十分程度の距離ですが、
待ち始めて二十分以上待っても他のグループの三人はやってきませんでした。
仕方がないのでそのまま時計周りに進んで
弁天堂まで戻ることにしましたが途中で他の三人に出くわすことはありませんでした。
ところが弁天堂に戻ると右手に進んでいったはずの三人がいました。
私たちを怖がらせようとしてわざと来なかったのかと思い、
問い詰めようとすると、向こうの三人が私たちに、
半分行った所で待たずにどこに行っていたのだと憮然とした様子で聞いてきました。
話を聞くと、向こうも池を反時計回りに半分行った所で
私たちと同じように待っていたらしいのですが、
どれだけ待っても私たちが来ないのでしびれを切らして
そのまま反時計回りに進んで弁天堂まで来たところ、反対方向から私たちがきたのだそうです。
両方のグループとも、互いに相手がグルになって怖がらせようとしていると思い込み、
釈然としない気分のまま解散しました。
夏休みが明けても相手がいつまでも見え透いた芝居をしていることに嫌気がさして、
しばらくは友人間の空気は冷めきっていました。
結局現在にいたるまで、相手グループは嘘をついているとは認めていません。
互いに嘘をついていないとすると、
すれ違っているはずの私たちは一体どこを歩いていたのでしょうか。
当時を思い出すと言いようのない気持ち悪さを覚えます。
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