見下ろせば紺碧の川が流れる原生林に覆われた断崖絶壁、
断崖につくられた歩道を手掘りのトンネルを通り抜けながら歩く秘境。
それが田沢湖の南にある渓谷、
抱返り渓谷です。
あたりの木々が黄色や赤に色づき、
川の青色とマッチした美しい景色。
抱返り渓谷の写真を見たとき、
私はひと目で好きになってしまい、
次の旅行は絶対にここだと思いました。
友人たちも秘境の絶景に盛り上がっていましたが、
Rひとりだけが、
抱返り渓谷を怖いと感じていました。
断崖に作られた道はかなりの高さがありますし、
名前の由来になったように、
昔はお互いを抱きしめあってから、
その場で半回転してやっとすれ違っていた危険な道です。
Rが怖いと感じるのもわかりますが、
今では手すりのついた人がすれ違える幅がある観光スポットです。
そういった怖さも秘境ならではのスパイスみたいなもので、
Rも秘境の景色には興味があったので、
私たちは抱返り渓谷を楽しみにしていました。
今にして思えば、
高いところでも平気なRが抱返り渓谷を怖いと感じていたのは、
断崖の高さだけではなかったのだと思います。
紅葉のシーズンをむかえていた抱返り渓谷は、
本格的なカメラを持って撮影をしている人もいて、
観光客でにぎわうなか、
私たちも景色を眺めながら断崖の散歩を楽しんでいました。
それは景色を見ている友人たちと周りの様子を撮影した、
他の観光客も写っているなにげない写真のはずでした。
ところが、撮影した画像を見ると私たちから離れた場所に立っていて、
顔の左側だけが見えていた男性の目が赤紫色に光っていたのです。
そのことに気がついたときには男性は先に進んでいましたし、
追いかけて目が赤紫色に光っている写真がとれました、
なんてことを伝えても何もできないし男性も嫌な気持ちになるだけです。
それにこの時の私は、
このことをあまり深くは考えていませんでした。
事故・自殺で亡くなった方の幽霊がいるから、
抱返り渓谷では妙な写真が撮れるというウワサをしったのは、
写真を処分してしばらくしてからで。
2016年に老人が身を乗り出して転落したと報道されたときは、
目が赤紫色に光っていた男性のことを思い浮かべましたが、
今となっては男性が無事なことを祈ることしかできません。
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