かなり昔の話ですが、
自転車で砥部町のあたりを走っていたときの事です。
国道379号線から県道53号線に入って、
ただなんとなく脇道に入っていき、
つづら折りの坂道を登ったあたりで小学校が見えてきました。
小学校の目の前には原池というため池があり、
茶色く汚れた水をためたため池は、
特に興味を引くような場所ではありませんでした。
私はそのまま通り過ぎようとしていましたが、
水面に水しぶきが上がったのを見てしまいました。
魚がはねたとかそんなおとなしいものではなく、
一抱えある石を落としたような、
それだけ大きなものが落ちたような水しぶきでした。
私は池で遊んでいた子供が落ちた姿を思い浮かべ、
大きく途切れたガードレールから草むらに入り、
原池の淵に向かって走りました。
道路から池の淵までわずかの距離で、
ユラユラとゆれる水面から水の中の様子を見ようとしても、
水が汚れていて全く見えません。
水が深くても、当てずっぽうでも、
今なら何かつかめめるかもしれない。
私は右手を水の中に突っ込んで、
水をかき回すように動かしました。
すぐに何かが腕に当たったのですが、
それは氷のように冷たく、
腕に巻き付くように動いてきたのです。
すぐに腕を引き抜いたのですが、
腰から下は力が抜けていて、
浅く速い呼吸のままへたり込んでしまいました。
水しぶきが上がって波紋が走る水面、
水の中で手を動かしたときに上がったしぶき、
道路から水際に来るまでの間に波紋とすれ違ったこと。
これまでの出来事をいくら思い出しても、
水の中で感じた冷たさの理由は出て来ないどころか、
生き物なら暴れるだろうし、気泡だって出ているはずだ。
最初に上がった水しぶきのあと、
どうしてあんなに水面が穏やかだったのか。
自分が見て体験した事は何なのか、
混乱は増すばかりです。
もう原因とかそんなことはどうでもいい、
とにかく逃げよう。
ヨタヨタとしなが立ち上がり、
落ち着きを取り戻したときには、
もう自分が住んでいたアパートの近くまできていました。
それから新聞の原池に関する
地方欄や死亡欄をよく見るようになったのですが、
事件が起きていない事だけは安心しています。
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