定光寺駅(愛知)

千歳楼」は、愛知県春日井市にある元老舗旅館です。

庄内川沿いに続いている険しい崖に1928年に建てられた施設で、
かつては結婚式や披露宴も頻繁に催されて賑わっていたそうですが、
やがて時代の流れとともに衰退していき、2003年に倒産しました。

経営者は未だに行方不明だそうです。
建物を管理する人がいなくなってしまった広い建物は荒れに荒れ、
あまりにもおどろおどろしい内外の様子に、
いつの間にか心霊スポットとして名を馳せ始めました。

2012年には1階部分で性別不明の白骨遺体が発見され、
地元に衝撃が走りました。

私がここを訪れたのは昨年夏、蒸し暑い夜のことでした。

人を驚かせるのが大好きな夫が
心霊スポットに連れてってやる!」と言うので、
怖いのが苦手な自分は全力で拒否しましたが、
ならば普通のドライブに行こうと話が落ち着き、
それならばと一緒に外出したのです。

買い出しを済ませ、夫が気分よく車を運転し始めました。

しばらく街の中を進み、やがて住宅地に入ったのですが、
進むにつれて家屋はどんどん減っていき、道は狭くなっていきます。
辺りは鬱蒼としていて、街灯の光もほとんどないような暗い場所にさしかかりました。

(こんな時に対向車が来たら……何らかの原因でヘッドランプが点かなくなったら……)

助手席に座っている自分はハラハラしていましたが、
夫はこちらの心配をよそに車を走らせ続けました。

やがて、荒れ果てた元老舗旅館「千歳楼」がその姿を現しました。

闇の中にひっそりと佇むその姿はただただ凄まじい空気を
身にまとっていて、図らずも連れてこられてしまった自分は、
圧倒されて終始無言でいました。

自分に霊感はないはずですが、
この時確かに重苦しく異様な気配を感じており、胸が苦しく、
夏なのに体が芯からすぅ……っと冷えていくのを感じました。

目を離したいのに、離せない。何かが見えたわけではないけれど、
なぜだろう、一刻も早くここから離れなければ、という気がしました。

私は夫に千歳楼を去るよう促し、
速やかに立ち去りました。

だいぶ離れた場所まで来ると、
先ほどまで感じていた体調の悪さは嘘のように消えていました。
たまたま連れていかれたわけですが、二度目はごめんこうむります。

それにしても、この建物が一級河川に面した
険しい崖に立っているという事実、
少し離れた所には普通の民家が点在しているという事実、
そしてすぐ近くに現役のJR中央線定光寺駅があるという事実、
これらもなかなかの衝撃ではありました。

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