それは和歌山県の白浜空港の近くにある、
通称ブラックビルと呼ばれている心霊スポットの廃墟ビル。

おそらくホテルを作るつもりだったのが
何らかの事情で工事が取りやめになった感じの建物だ。

数年前の恐怖体験談になるが、
学生時代の同窓会に出席した後ノリで肝試しをしようという事で、
この廃墟に車で一時間ほどかけて出かけようという話しになった。

近畿のとある県を出発したのが夜の10時頃。
ブラックビルに到着したのは11時半近くになっていた。

もちろんこの手が苦手な同級生たちは帰ってしまったので、
参加メンバーは男6人、女5人の20歳の私たち。
ワンボックスタイプの車二台で出かけた。

途中にも十分心霊スポットだろうというような、
気持ちの悪い崩れそうなトンネルを通り、
さびれたホテルも過ぎて雰囲気は十分すぎるくらい盛り上がっていた。

着いた。私は先頭を走っていた車の後部座席に乗っていたので、
私がその車を降りた最後の人。運転していた男子が私が降りたのを見計らって、
キーをロックする。

ブラックビルの外観は本当に心霊映画に出てきそうな黒ずんだ崩れてきそうな建物。
中もかなりのものだ。

いよいよ侵入するという時に、
お決まりの「やばいよ、ここ。私やめておく。」と言い出す女友達。

「みんなで一緒に行くから大丈夫だって。一人で外にいるほうが絶対やばいから!」と
なかば強引に連れ込む。彼女はすでにおいおい泣いている始末だ。

みんなでダンゴになって歩き出す。
車にあった懐中電灯一個だけの明かりだけが頼りだ。

洗面所やお風呂らしきものが不気味に浮かび上がる。
なぜか床が一段低くなっている一角があり、
誰かが足を踏み外して皆を驚かせる。

だけどやっとこさ廊下を押し合いへしあいしながら通りぬけ、
ドアのない、向こう側にでる出口のようなものにさしかかる。

とその時。後ろから2~3番目を歩いていた私の足首を誰かがつかんだのだ。
結構な力だったのだが慌てて振り払うと手はどこかへ行ってしまった。

ここで悲鳴なんぞ上げてしまうと全員でパニックに陥るのが目に見えているので、
私は「ちょ、ちょっと気分が悪いからいったん出よう。」と飛び出したのだ。
泣いている彼女も、「もう無理。」との事で全員で車に戻る。

「なんだよ、今からだったのに~」と文句が出たのだが、
とりあえずあの手の事を報告しようとした途端、異変に気付いた。
「えっ…?」私が一番最後に降りた車のフロントガラスに
くっきりと指で何かの文字が書いてある。

照らしてみると、「SOS」。誰かが悪戯でやったんだろうと騒いでたのだが、
もうひとつ気づいた事が。その文字は車の中から書かれてあったのだ。

それからは大騒ぎで、じゃんけんに負けた人がその車に乗って帰るとのことで、
私は幸い二台目に乗れたのだが、途中のトンネルでCDプレーヤーが
おかしくなったりと散々だった。

もうおもしろ半分でああいう場所には行かないと、
固く決心して帰ってきた。

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