なぜ心霊動画が一瞬でバズる?感情感染とアルゴリズムの共犯

TikTok・Twitterで怪談が止まらない理由:科学が解くSNS時代の拡散心理

SNSを開くと、突然おすすめに現れる心霊動画や「この廃墟ヤバい」「絶対見ない方がいい」系の投稿。再生ボタンを押した瞬間から恐怖が始まり、気づけばスクロールが止まらず、シェアしたくなる。この「SNS時代の怪談が拡散する」現象は、2010年代以降の日本で爆発的に増加し、時には社会現象にまで発展する。なぜ今、怪談はこれほど速く、広く広がるのか。その裏には、脳の原始的な反応と現代のアルゴリズムが織りなす強力な連鎖がある。

本稿では、SNS怪談拡散と呼ばれるこの現象を、既存の研究や日本での実例を手がかりに探求する。そこには、感情感染、ソーシャルプルーフ、恐怖の報酬ループが絡み合い、一つの投稿を全国的な「共有された恐怖」に変えるプロセスが浮かぶ。こうした探究は、単なるバズの説明を超え、人間がなぜデジタル時代に「怖いもの」を共有し続けるのかという問いへと繋がる。科学の光を当てても、タイムラインに流れる微かな恐怖の連鎖は、容易には止まらない。

SNS時代の怪談が拡散する理由の核心

SNS怪談拡散とは、SNS上で心霊体験談・心霊写真・怪談動画が急速に拡散・強化される現象で、2015年以降のTikTok・Twitter(現X)・Instagramで顕著に見られる。歴史的に見て、このプロセスは1970年代の口裂け女ブームの口頭伝播から進化し、現代ではアルゴリズムが加わることで速度と規模が桁違いに増大した。当時は「子供の噂」として扱われたが、現代では社会心理学・認知科学・メディア心理学の観点から説明が試みられている。

一般的な解釈として、SNS怪談は「感情の感染力×アルゴリズムの優先表示」の掛け合わせで爆発的に広がる。恐怖・驚き・不気味さという強い負の感情は、ポジティブ感情より共有されやすく(Jonah BergerのSTEPPS理論)、プラットフォームのアルゴリズムが「エンゲージメントが高い=表示優先」と判断するため、恐怖コンテンツが優先的にフィードに流れる。これにより、一つの投稿が数時間で数万〜数百万リーチに達する。

現象の構造・背景

SNS怪談拡散の構造は、4つの心理・技術的ループで成り立つ。近年では特に若年層のSNS依存が世界中で確認されており、TikTokなどをはじめとする「無限スクロール」が問題となっている。SNS依存の仕組み:AIアルゴリズムとストレスを生むメカニズムを参考にすると、以下のような構造となる。

①感情感染(emotional contagion):恐怖動画を見た人の強い感情が、視聴者に即座に移り、ドーパミン・アドレナリンが共有される。②ソーシャルプルーフ(social proof):多くの人が「怖い」「ヤバい」とコメントすると、「皆が信じているから本当」と認識が固定化する。③確認バイアス+HADD:視聴者が「自分も似た体験をした」と記憶を再構築し、代理検知装置が「霊の意図」として過剰検知する。④アルゴリズム強化ループ:いいね・コメント・シェア・視聴完了率が高いほどアルゴリズムがさらに拡散し、恐怖の連鎖が加速する。

進化論的に、この仕組みは祖先が危険情報を素早く共有して生存率を高めた遺産だ。現代のSNSはこれをデジタル版に進化させ、恐怖を「安全な共有体験」として快楽化する。怖いもの見たさ(benign masochism)と興奮転移が加わり、「怖いけど見たい→シェアしたい→もっと怖い」というループが完成する。

事例・史料の紹介

日本で最も象徴的な実例がきさらぎ駅(2004年起源)だ。2004年1月8日深夜、2ちゃんねるオカルト板の「身のまわりで変なことが起こったら実況するスレ」に「はすみ」名義の女性が投稿した。「新浜松駅から遠州鉄道に乗ったのに、いつまで経っても停まらない。乗客は皆寝ている」という内容から始まり、突然「きさらぎ駅」という無人駅に到着。時刻表もなく、周辺は森だけ。投稿者は線路を歩いて帰ろうとするが、太鼓の音や片足の老人が現れ、親切な運転手に車で送ってもらうも山奥へ向かい、通信が途絶える——というリアルタイム実況形式の物語だった。

このスレッドは参加者とのやり取りで共同構築され、「助けに行く」「警察に連絡を」とネット民が大盛り上がり。数日で全国に拡散し、テレビ再現ドラマ化、映画化までされた。実際の遠州鉄道沿線を探す人が殺到し、比奈駅や関連スポットが「聖地」化。科学的には創作の可能性が高いが、匿名実況の臨場感と未完の謎が確認バイアスとHADDを刺激し、SNS以前の口コミで全国パニック級の拡散を起こした好例だ。

海外SNS都市伝説の代表例はSlender Man(2009年起源)。Something Awfulフォーラムで創作された「背の高い白いスーツの男」の画像が、Creepypastaとして拡散。2014年にはウィスコンシン州で12歳の少女2人が友人を19回刺し、「Slender Manに仕えるため」と供述。事件後、Google検索が急増し、映画化・ゲーム化までされた。アルゴリズムが恐怖画像を優先表示した結果、グローバルな集団暗示を生んだ。

もう一つの事例はMomo Challenge(2018-2019)。WhatsAppやYouTubeで「Momo」という鳥のような不気味な顔の画像が子ども向け動画に挿入され、「自殺タスク」を指示するというホックス。南米・インドで自殺報道が相次ぎ、米国の警察が学校に警告を発令。実際は2016年の彫刻作品の画像が悪用されただけだったが、感情感染とアルゴリズムの恐怖優先表示で世界的に拡散した。

これらの史料は科学誌やフィールド調査で確認可能で、SNS時代の怪談拡散が感情・アルゴリズム・HADDの複合で起きることを裏付けている。

独自の解釈

これらの現象をSNS怪談拡散から読み解くと、文化人類学的な視点が加わる。日本では夏の怪談文化がSNSと融合し、拡散を加速させている。高温多湿の夜に「怖い動画を見ながら語り合う」行為は、伝統的な怪談会をデジタル化したもの。恐怖共有がオキシトシンを放出して結束を強め、アルゴリズムがそれを増幅する。

他の記事では触れられにくい角度として、「恐怖の通貨価値」を挙げる。SNSでは「怖さ=エンゲージメント通貨」となり、恐怖度が高いほどいいね・コメントが増え、投稿者が社会的報酬を得る。これが「もっと怖いものを」という競争を生み、怪談をエスカレートさせる。しかし、科学で全てを説明しきれない余白があり、個人の不安傾向や集団心理が拡散の「火種」を決定する。

怪異として語られる理由

こうした拡散の働きが「怪異」として語られる背景には、地域性や文化的価値観が関わる。日本では恐怖の共有が共同体の一体感を生み、SNSがそれを全国規模に拡大した。これは、人間の感情構造で、恐怖を語り合うことで現実の不安を相対化するためだ。

歴史的に、口裂け女のようなパニックは社会的不安の投影であり、現代のSNS怪談も同様に時代不安(孤独・将来不安)を映す鏡となっている。こうした文化的文脈は、自然な拡散を超自然的な「呪いの連鎖」として語られる力を持っている。

科学で読み解いた先に残る“影”

SNS怪談拡散を社会心理学的に見れば、多くの場合、感情感染・ソーシャルプルーフ・アルゴリズムループで説明できる。例えば、きさらぎ駅の投稿が集団暗示を生み、拡散を誘発した。しかし、それでも全ての拡散がこれで尽きるわけではない。ある記録では、科学的説明後も「本物の霊だった」と信じる人が残り、信念の持続性を示すが、完全な解明には至っていない。

科学はメカニズムを照らすが、人間の物語欲求とアルゴリズムの力学が、説明しきれない影を残す。こうした余白は、SNSに流れる怪談の不気味さを永らえさせるのかもしれない。

科学の視点でSNS怪談拡散を紐解いても、タイムラインに潜む曖昧さが完全に消えるわけではない。その連鎖は、人間が恐怖を共有し、意味を見出そうとする鏡でもある。今回の記録が、あなたがスクロールしながら感じた微かな恐怖の広がりを静かに振り返るきっかけとなれば幸いだ。探究は続くが、SNSの闇はいつまでも怪談を運び続ける。

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