それがいつの事だとは伝えられていませんが、
冬の寒さがひときわ厳しい夜だったそうです。

黒坂の麻採り場で働く女房や娘達が、
囲炉裏にあたりながら囁いていたのは怪談でした。

この黒坂にも幽霊滝と呼ばれる場所があり、
女たちは夜の怪談にあてられていたのでしょう。

これから幽霊滝へひとりでいくものはいないか、
証拠の賽銭箱を持ち帰ったら、
その日とれた麻はその人のものだと言い出します。

そこで女房のひとりのお勝という女が立ち上がり、
二歳のわが子をしっかりと背中に括り付け、
その上に着物を重ねてから寒い夜道を幽霊滝へと向かいます。

「おい!お勝」

幽霊滝の賽銭箱に手を伸ばしたお勝に聞こえたのは、
叱りつけるように自分の名前を呼ぶ声
でした。

お勝は震えながら賽銭箱をつかむと走り出し、
自分の名を更に強く呼ぶ声に脇目もふらずに、
女たちが待つ麻採り場へと急ぎます。

賽銭箱を見せて女たちの羨望を集めるお勝の背中には、
首をねじ切られて頭を失くしたわが子が括り付けられていたそうです。

この幽霊滝が竜王滝(黒滝)で、
この物語の舞台は滝山公園として整備され、
今はつつじの花の色が美しい場所として知られています。

私が滝山公園に訪れたときは、
つつじの見ごろをすぎてからだったので、
滝山公園は緑の木陰を登る遊歩道という感じでした。

日は遮られていたとはいえ、
公園の入口から竜王滝までわりと距離があり、
滝につくころには額には汗が滲んでいました。

それでしばらく滝のそばで涼んでいたのですが、
気がついたときには右手の指先が動かしにくくなっていて
触ると驚くほど冷たくなっていて。

急いで歩道を引き返したのですが、
涙目になっていたのもあるのでしょうが、
しばらくは鼻水が垂れるほど体も冷えていました。

歩道を走りながら、
いきなり後ろから頭をつかまれるのではないか。

県道210号線沿いの、
公園入口まで戻って落ち着きを取り戻すまでは、
不安でしかたがありませんでした。

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