私は貧血持ちなので、
立ちくらみや耳鳴りがたまにある。
今までに気絶した事は2回あるが、
気絶する時は身体を守るように倒れたりはしない。
身体を守る事は、
意識がハッキリとしているから出来る行動だ。
気絶する様子を見ていた人に聞いたら、
ゴンと音を立てて壁に倒れて地面に崩れ落ちたそうだ。
意識がハッキリしない、
そんな時にバランスを崩すと大怪我になりかねない。
私が白山島(はくさんじま)へ観光に行った時に、
風と波の音が消えて耳鳴りがはじまった。
いつもならすぐにおさまるのに、
いつもと違うオォという音がどんどん大きくなっていった。
気絶する前の様子とも違っていたけど、
意識を失って地面に頭をぶつけるのが一番最悪なので、
早めにその場に座り込む。
実は山形県鶴岡市由良にある白山島は
3000年前の火山活動で生まれた島で、
日本海を一望する展望と自殺のスポットで知られている。
日本海に面した断崖絶壁では、
何人も自殺者がいるという話だ。
白山島の頂上には日本海軍の慰霊碑もあり、
2000人余の犠牲者への言葉がそこには刻まれている。
観光客や家族が訪れるような場所だが、
いわくのある場所でもあるようだ。
鳴り止まない音に朦朧としていると、
後ろから肩を叩かれる。
「……丈夫ですか」
白山島に観光に来ていた人が、
遊歩道に座り込んでいる私を気にして声をかけていたようだ。
肩を叩かれた瞬間、
聞こえていた音が消えて、
意識もハッキリとしていた。
「あ、すいません。急に立ちくらみがして」
ただの貧血でしばらくしたら治るということにして、
声をかけてくれた人に先に行ってもらった。
遊歩道のロープの向こう側に落ちたら、
傾斜のある岩肌で大怪我するし。
ロープを超えなくても、
舗装された道に頭をぶつけていたら無事ではすまない。
いつもの耳鳴りと違う音は、
仲間を呼ぶ自殺者達の声だったのだろうか。
私は貧血持ちだからすぐに座り込んだが。
普通の人が朦朧としたまま、
それでも動き続けていたらと考えるとゾッとしてしまう。
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