中学校卒業を目前に控えた三月、私は友達と二人、
大阪府阪南市にあるほととぎす旅館という廃墟へ向かいました。

一部の廃墟マニアの間では名の知れた廃墟ということもあり、
ほととぎす旅館と検索するだけでたくさんの検索結果がヒットする、
そんな廃墟です。

JR阪和線の山中渓駅で下車した後、ネットでの情報を頼りに、
藁にも縋る思いでただただ山中渓周辺をさまよい歩いていました。

半ば諦めかけていた次の瞬間、壁が所々薄汚れた、
まるで旅館のような建物を見つけました。

「あれがそうちゃうん?」

友達と相談し、ネットでの画像を実物を照らし合わせ、
その建物とほととぎす旅館があまりにも類似しているということから結局、
この建物がほととぎす旅館という結論に至りました。

そう、この建物こそがほととぎす旅館だったのです。

どこかに入り口はないか、するとたまたま近くに柵があり、
そこにちょうど人が入れるサイズの穴が空いていたため、
そこからほととぎす旅館の内部に潜入することとなりました。

柵を潜り抜けると手すりのない橋を渡り、渡り終えると壊れた水車、
途中で途切れた吊り橋が視界一面に広がりました。

ほととぎす旅館は別館、本館の二つで構成されていて、
当初、私は窓や入り口が板と釘で完全に閉鎖されている建物のことを
本館だと思い込んでいましたが、実際はその建物が別館で、
その別館から少し離れた場所に建つ建物こそが本館だと後に知りました。

別館に入るための方法を必死に模索していた次の瞬間。

ガコン…

別館の内部で何か、物が倒れるような音がしました。

私の耳にその音は聞こえませんでした、
ですが、友達の耳にははっきりその音が聞こえたと友達は言います。

「ここヤバいって」

友達が口にしたその一言から、
私と友達は目的を別館から本館へと移しました。

ほととぎす旅館にはあまり知られていない噂があります。
それは別館か本館のどちらかで浮浪者が死んでいたという噂です。

私が思うに、浮浪者が死んでいたのは本館ではなく別館のように感じます、
そうでもないと普通、あそこまで板を何十にも重ねて窓を封鎖したり、
入り口を閉鎖したりするのでしょうか…

三月ということもあり、外の日差しが暖かかったことを未だに覚えています。

ですが本館は外から一変、本館内部を包んでいる雰囲気やオーラ、
それらは決して暖かいものでも何でもなく、ただ冷気に満ちていました。

探索を進めるうち、私の気分が探索前に比べて
優れないということに気がつきました、
おまけに頭もズキズキと痛み、まるでそれは頭痛のようでした。

一階の探索を終え、二階に場所を移しました。
二階は似たような構造が続き、すぐに探索を終えることができました。

最上階、屋上へと階を移し、
ここでようやく外の空気を吸うことができました。

久しぶりに吸う外の空気は気持ち良かったです、
それぐらい本館内部の空気が淀んでいるのだということを思い知らされました。

それから本館内部の探索を終えた私と友達は
逃げるようにして家に帰宅しました。
数日後、肩に感じたのしかかってくるような重み。

今思えば、私はほととぎす旅館霊に憑依されていたのかもしれません…。

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